失われた17年 1992年の試算 その3

この試算の結果、当時の私の考え方としては、もしガットウルグァイラウンドで米の輸入自由化が認知され、将来的に関税率が0%になった場合、カリフォルニア米は2,400円/10kg前後で日本で販売される可能性がある。為替レートが1ドル100円に限りなく近づいた場合は更に2,000円/10kgを下回る可能性がある。(当時の為替レートは1ドル=140円)もし関税化を選択し自由化をするのであれば、早急に国内農業保護対策を講じなければならない。当時考えた実施具体策は以下の通りであった。
 基本的には米の輸入自由化を絶対阻止するが、阻止できずに自由化を受け入れる場合は年次別に関税を引き下げる交渉をする。当初関税率を400%で設定し、1995年から3年毎に50%ずつ関税率を下げ、2012年に0%を実現する。
そのためには生産者米価を1995年以降、毎年1000円前後下げなければならない。2012年には生産者米価60kg当たり14,000円を実現し、カリフォルニア米との自由競争が可能な状態になるような施策を今から早急に実施しなければならない。
輸入自由化を前提とした関税率と国内米価の試算】単位:円

期間 関税率(%) 想定関税金額 米国産価格 生産者価格
1995〜1997 400 1,600 4,000 24,000
1998〜2000 350 1,400 3,800 23,000
2001〜2003 300 1,200 3,600 22,000
2004〜2005 250 1,000 3,400 20,000
2006〜2007 200 800 3,200 19,000
2008〜2009 100 400 2,800 17,000
2010〜2011  50  200 2,600 16,000
2012〜   0   0 2,400 14,000

 当時はEUのマクシャリー改革の内容などは知らなかったので、自由競争が可能な施策としての直接支払対策(差額補償支払い・中山間地支払い・環境支払い)の提案にまで至らなかった。しかし2012年に国内生産者米価10,000円を実現した場合、国内農業経営を維持する方法としてはデカップリング対策しか無かったことは明白である。1993,年に日本は一粒たりとも輸入しないという国内圧力に沿って、ミニマムアクセスの選択をした。その後、ミニマムアクセスの輸入量の増大圧力に抵抗できずに1999年に関税化を選択し、778%という関税で今日まで推移している。
 今日のTPPでは1992年当時と同じような議論がされているが、反対論や国内農業の危機論を煽るだけでは同じ過ちを犯してしまう。日本農業を守る具体的な対策と財源の議論を国民に幅広く提議する必要があるのではないだろうか。1992年当時、誰にも相手にされなかった試算を参考にして、現在の試算に基づく対策と財源の議論を深める時である。
【関税撤廃を前提とした関税率と国内小売価格の試算】単位:円

期間 関税率(%) 想定関税金額 中国産価格 国内産価格
2012〜2015 750 3,000 6,000 4,000
2015〜2017 500 2,000 5,000 4,000
2017〜2018 400 1,600 4,600 4,000
2018〜2019 300 1,200 4,200 3,800
2019〜2020 200 800 3,800 3,600
2020〜2021 100 400 3,400 3,400
2022〜2023  50  200 3,200 3,200
2023〜   0   0 3,000 3,000