FAOの世界農業遺産

ラムサール条約会議でFAOと話しあいを持って以降、今度はFAOから「世界農業遺産」という話が舞い込んできた。「地域住民とその周囲の環境との関係性を持続させる取り組みから生まれた、世界的に重要な生物多様性を顕著に保持している土地利用システム及び景観」が「世界的に重要な農業遺産システム」(GIAHS)と定義されている。この話を聞いたときに私はコウノトリやトキの取り組みの本質に辿り着いたなと感じた。コウノトリやトキのために田んぼの生物多様性を高める取り組みをしていると思われがちであるが、本当の取り組みはコウノトリやトキとともに住める地域環境と生き方をどのようにするかということなのだ。生産者はお米が高く売れるから取り組むのではなく、百姓仕事の本質を取り戻すことなのだ。昔、アメリカの有機農業生産者と話をしていたら、彼は私に1冊の本をくれた。その本にはこんなことが書いてあった。百姓は畑に種をまく時に3つのことを思ってまく。一粒は食べるために、一粒は旅人(消費者)のために、最後の一粒は鳥のためにまくのだ。そしてオーガニックの基本とはこのことなのだと教えてくれた。将に生物多様性GIAHSそのものではないのか。GIAHSの取り組みはまだ始まったばかりであり、モデル的に地区を選定している程度である。最近になってFAOのGIAHS担当が来日し、日本で行われている田んぼの生きもの調査とその周辺の活動に驚き、国内におけるGIAHS登録を進める準備を開始した。ユネスコ世界遺産とは異なるが、世界的に注目されるなかで地域の伝統的な生物多様性農業や食生活そして景観が保全されることになれば新しい農業の価値観が創造されることになるだろう。今度はラムサールの湿地登録ではなく、いよいよ「田んぼ」と「生きもの調査活動」を世界農業遺産登録する時が来たと言えよう。