失われた17年

 現在TPP問題で様々な議論が展開されているが、ガットウルグァイラウンドの時の日本の選択についての総括が無い。1993年に「米を一粒たりとも入れない」というムシロ旗を立てて交渉した結果はどうなったのかを検証しないと今回も同様の失敗をするのではないだろうか。ガットウルグァイラウンドの交渉とは関税引き下げによって国内米価が影響を受けないようにして、国内農業を保護することが目的であった。そして高率関税を維持する代わりにミニマムアクセスの受け入れをした。将に1993年の選択には「米価下落」というシナリオは無かったのだ。
しかし当時のシナリオでは下がらないはずの米価が、22,000円から今年は12,000円に半減している。更に保護したはずの国内農業の指標は1993年以降の17年間で大きく後退している。維持されなければならない米の生産目標数量は、17年前の900万トンから今年は800万トンへと減少している。減反面積も17年前の67万haから今年は100万haへと拡大している。更に国内農地では、耕作放棄地が17年前の20万haから今年は40万haと倍増している。耕作放棄の原因は「高齢化」「価格低迷」「耕作受託者の不在」「減反の不作付け」等である。これらの数字は単に食事の多様化による米消費の減少という言葉で片付けられて良いのか。17年前の日本の選択は、日本の稲作農家と日本の農地を守るはずであった。しかし、17年間の歴史はそれを証明していない。
【失われた17年間の国内農業指標】
年度 米価/60kg 米生産量  減反面積 耕作放棄MA米
1993年 22000円  900万トン  67万ha   20万ha 40万トン
2010年 12000円  800万トン 100万ha   40万ha 80万トン

このような事実がこの17年間に起きているのに、何故、ガットウルグァイラウンド以降の17年間の総括をしないのか。更に、これは米価の問題だけでなく、日本の経済全体の問題として「失われた17年」の総括をしていないのではないか。当初から判断が間違っていたのか。当初は間違っていなかったが、その後に判断を間違えたのか。どこで判断を間違えたのか。誰が判断を間違えたのか。1993年以降、世界の情勢は大きく変化してきたにもかかわらず、何故、変化に対応できなかったのか。これらの疑問に明確な答えを出す人を私は知らない。しかし今回のTPP参加議論は17年前と同じ構図で行われている。農業団体は17年前と同じ絶対反対路線に固執し、過去の総括をしていない。経済界は自由貿易の障壁になっているものが農産物以外にあることを知りながら、農業を悪者にして強行突破を図ろうとしている。そして韓国がアメリカやEUFTAを締結したことによって、自分たちの会社が国際競争に乗り遅れることだけを心配している。国会議員はTPP参加反対グループを結成したが、「TPPに反対している国会議員は日本の水田を守ろうとしているのか、自分の票田を守ろうとしているのか、どっちなんだ」と自民党の国会議員に新聞に書かれている始末である。国は「食と農林漁業再生推進本部」を発足させ、来年6月までに農業の競争力強化のための基本方針策定のための議論を始めた。しかし推進本部の議論には17年間の総括が無く、議論の焦点が明確になっていない。1992年のECのCAP改革とブレアハウス合意の背景と、その後のEU統合とEU経済の発展と改革CAP政策の関係、1997年の韓国のIMF支援を仰いだ経済危機と親環境農業政策とその後の経済発展の関係、これらの分析と日本の17年間の総括をしない限り、また同じ過ち犯す恐れがある。17年前に国民に的確な情報を提供できなかったマスコミは、今回もまた以前と同様に国民に正しい情報を与えていない。この国の将来を左右する問題に、国民はまたもや議論の外に置かれている。