国民総幸福量と生きもの調査

先日、世界農業遺産登録の勉強会資料としてブータン国民総幸福量を調べた。国民総幸福量GNHとは1972年に、ブータン国王ジグミ・シンゲ・ワンチュが提唱した「国民全体の幸福度」を示す「尺度」。ブータンは国民総生産GNPで示されるような、金銭的・物質的豊かさを目指すのではなく、精神的な豊かさ、つまり幸福を目指すべきだとする考えから生まれた。将に3.11後の日本が目指すべき方向ではないかと思った。
ブータンは国土面積が九州とほぼ同じ、人工は67万人、電力をインドに売って外貨を稼ぎ、教育費と医療費は無料の国。言葉はゾンカ語、ネパール語のほかに英語が公用語となっている。主要産業は農業だが労働人口の90%が自給的農業に従事し、農民の多くは国民経済の対象になっていない。平原のわずかな低地で赤米や蕎麦の栽培をし、国土の50%を超える山岳地では果樹栽培をしている。トウガラシを常食し、乳製品を多用する食生活をしており、照葉樹林の文化で伝統的礼儀作法を重んじている。自然保護の観点から外国人の入国制限があり、旅行代金は1日200ドル前払い(交通費、宿泊費、食事代、ガイド代含む)をしなければならない。更に国家として禁煙をしており、外国人は持ち込み料として200%関税を取られるそうだ。このような国なので昔から桃源郷とかシャングリラと呼ばれている。
国民総幸福量の調査は2年ごとに聞き取り調査を実施し、人口67万人のうち、合計72項目の指標に1人あたり5時間の面談を行い、8000人のデータを集める。これを数値化して、歴年変化や地域ごとの特徴、年齢層の違いを把握する。GNHは 1.心理的幸福、2.健康、3.教育、4.文化、5.環境、6.コミュニティー、7.良い統治、8.生活水準、9.自分の時間の使い方の9つの構成要素があり、GDPで計測できない項目の代表例として「心理的幸福」がある。この場合は正・負の感情(正の感情が 1.寛容、2.満足、3.慈愛、負の感情が 1.怒り、2.不満、3.嫉妬)を心に抱いた頻度を地域別に聞き、国民の感情を示す地図を作る。どの地域のどんな立場の人が怒っているか、慈愛に満ちているのか、一目でわかるようだ。
この調査は政府が具体的な政策を実施し、その成果を客観的に判断するための基準にするのが主な用途で、1990年代からの急速な国際化に伴って、ブータンで当たり前であった価値観を改めてシステム化する必要があったそうだ。2007年に行われた調査で「あなたは今幸せか」という問いに対し9割が「幸福」と回答した。
民主党政権になってからマニフェストについて様々な意見があるが、日本国政府も「国民総幸福量」調査を実施してみたらどうだろうか。便利さの対極にある「心理的幸福」について国民がどんな回答をするか、それを見てから政策決定をしても遅くない。
ブータンを調べてゆくうちに、この調査は田んぼの生きもの調査と共通点が多いことに気が付いた。これまで田んぼはGNPの視点で生産性や大規模化、国際競争力の確保等のキーワードで議論されてきた。それに対して私たちはGNHの視点で「生きものの命」をキーワードにして生きもの調査活動を展開してきた。私たちは田んぼから距離を置いたモニタリング調査活動ではなく、田んぼの生きものと一体となった活動を基本にしている。どうやら私たちの活動は「田んぼの生きもの総幸福量調査」ではないだろうか。3.11以降、私は生きもの調査の必要性と重要性を説明しているがなかなか理解が得られない。そこで今後は生きもの調査だけでなく、そこに総幸福量調査を加えて、もう一度、話をしてみたい。