コメ高くても国産89%

11月20日付けの読売新聞に「コメ高くても国産89%」というタイトルで本社世論調査結果が掲載された。内容は、「仮にコメの輸入が自由化された場合、価格が高くても国内産のコメを主に買いたいと応えた人が89%を占め、価格が安ければ外国産のコメを主に買いたいとする人は7%に過ぎなかった」というものであった。一般の人がこの記事だけを読むと、「日本人の殆どが国内産を買うと言っているのだから、TPP反対を唱えている農業団体はそろそろ矛先を収めても良いのではないか」という意見になることが予想される。更に、同じ紙面で名古屋大教授の生源寺氏が、この調査結果から「納税者負担型」への転換は国民に理解されにくい、というコメントを書いている。世論調査に嘘は無いのだが、国民に正確な判断をしてもらうための情報を提供するのであれば、きちんとした解説が必要である。
 私が調査を補足する解説を任せられたら、最初にこの調査はコメを直接購入する消費者個人が対象の調査であって、日本のコメ需要の約30%を占める業務用需要と約8%を占める加工、援助、飼料向けに販売されている外国から一定量買い入れているミニマム・アクセス(MA)米が除外されていることを書く。そしてタイトルの正確な表現としては「主食用のコメ高くても国産63%」となり、業務用需要の意向調査をした後に、国産米の支持比率を出さなければならないというコメントを書く。更に、付け加えれば、国内のコメ以外の業務用需要は原料価格と原料加工賃を理由に海外にシフトしており、それが日本の食料自給率を下げている最大の要因だという事実を書く。コメにおいても一時期JRの弁当として販売されていたオーガニック弁当(Oべんとう)は、アメリカの冷凍食品工場で生産されたもので、業務用需要としては国内産の比率を下げる要因となる。
 生源寺氏のコメントは農業経済学者としてガットウルグァイラウンド以降の農業政策に携わってきた人間の発言としてはいかがなものかと思う。1993年以降、日本も直接支払に転換すべく構造改革を試みてきたが、ことごとく失敗したのは主に国民に対する理解を求めようとしなかったことにある。もちろん、これは生源時氏だけの責任ではないが、政治家も農水省も農協組織も国民にきちんと世界の農業保護政策が価格支持から直接支払に転換したことの説明責任を果たしていないし、マスコミもその事実を報道していない。説明を受けていない国民は中山間地対策や農地・水・環境保全対策や戸別所得補償対策の背景が理解できない。更に、コメを関税化したときも国民にはきちんとした説明をしておらず、カビが生えたMA米を主食用に転売した事件の重大性が国民は理解できていない。このような経過であるにもかかわらず「納税者負担型」への転換は国民に理解されにくいというコメントは他人事のように聞こえてしまう。利害にとらわれない学者の立場できちんとした背景説明と選択肢を示していただけたらと残念に思っている。