系統経済事業

農協には一般社会では分からない言葉がある。私が全農に入って最初に当惑した言葉が「系統」という言葉であった。一般的に系統というと電車やバスの路線を指すが農協では別の意味で使われる。系統とは農協グループ全体を総称するものでもなく、農協の経済事業で使われる場合が多い。系統経済事業という呼び方があり、それは農協が行う様々な経済事業の総称として使われる。その他、系統信用事業や系統共済事業という使われ方もする。系統信用事業とは農協が行う金融事業であり、銀行業務である。系統共済事業とは農協が行う保険事業であり、生命保険や火災保険等の取り扱い業務である。共済のなかには「農業共済」というものがあるが、それは農協の事業ではなく農業共済組合の事業であり、農業災害補償法に基づき農業災害を補償する仕組みである。

系統経済事業の経済事業という言葉も一般会社では使われないが、所謂、商売である。経済事業は購買事業と販売事業に分かれており、全農は購買事業連合会と販売事業連合会が合併して出来た団体である。「購買」という言葉は一般的に売買行為における「買い」を意味し、全農が農家から農産物を買うというイメージであった。「販売」とは「売り」を意味し、全農が農家に資材を売るイメージであった。しかし系統経済事業では全く逆を意味する。全農は農家に代わって資材を買うので購買事業であり、農家に代わって農産物を販売するので販売事業なのだ。つまり系統経済事業において全農は売買の主体ではなく、主体はあくまで農家であり、全農はその農家の代理行為をしているという定義づけなのだ。これが独占禁止法の適用除外団体となる所以である。

しかし本当に農家の代理行為なのかどうかは定かで無い。その一番の理由は農家と全農が事業上の運命共同体では無いということだ。系統購買事業では全農が先に手数料を取る仕組みであり、農協は価格競争によって価格を下げても残った手数料で実務をこなさなければならない。更に系統販売事業の基本は従価方式であり、農産物の販売は委託方式が主流なので販売価格が安いと全農や農協には手数料があまり入らない。高い米価を維持しているのは農協の経営を維持するためだとの批判はここから来ている。

これらの運命共同体でない仕組みは農協グループ全体の共倒れを防ぐ効果はあるかもしれない。しかし全農という連合会は農協の事業の代理補完機能を目的に設立された組織であるにもかかわらず、系統経済事業における農協の構造的赤字要因を作り出している。農協からの連合会批判はこの点にある。