系統メーカー

全農に入りたての頃、系統購買事業は農家組合員を商系事業から守っているという話しをよく聞いていた。私には意味不明であった。文言通りに受け取ると、農協以外の商売人は農家を騙し、悪徳商売をするのだという理解になる。しかし「系統は善、商系は悪」という原理は徹底され、総ての事業はこの原理で組み立てられていた。私が担当していた農業機械事業もその原理で組み立てられ市況価格を乱すのは商業者であり、農協はそれに対抗しなければならない。そのために全農は市況対策費を経済連に支払い、経済連は農協に支払うという仕組みであった。しかし実際に農協や農家を回って見ると実態は異なり、商業者が以前から協議を重ねていた補助事業を、農協が面子をかけて引っ繰り返すための対策だったりした。私は商売人の息子だったので「商系は悪」という概念が間違いであり、商系も地域で持続的な商売をするためには極端な値引きはしないことを知っていた。価格値引きの原因は日常的な営業不足であり、それは農協に起因する場合が多かった。

系統の農業機械事業とは製品の販売と部品の供給と機械の修理であった。本来の購買事業であれば、農家が農協に農業機械を予約注文して経済連・全農が代行して買うのであるが実態は違った。現地には系統農機メーカーの駐在員がおり、その人間が修理や営業を農協と一緒にしていた。購買事業全般で使われる用語に「自主推進」という言葉があった。それは何を意味するかというと、農協が独自に営業をして農家から注文をとる活動を総称するものであった。一般社会の商売では当たり前のことが、ここでは当たり前ではなかった。

メーカーがよく勘違いをするが、組織のトップである全農で取り扱いを決定すれば自動的に全国の農協に情報が流れ、注文が集まってくると思っている。しかし実態は異なる。メーカーは農協に足を運び、そこで営業活動をして一定の実績をあげなければならない。つまりメーカーは農協の管轄内で営業をすることが許され、注文が上がれば代金決済をしてもらう。もちろん農協に手数料という名目の所場代を支払う。数量が一定以上になって初めて全農の取り扱い商品となり、価格条件通知書が経済連経由で農協に配布される。そうすると初めて系統取り扱いメーカーとなれる。このように系統メーカーとは系統組織の活用を許されたメーカーであり、一般のメーカーとは異なり系統の仲間入りをすることができる。しかし日本の総てのメーカーがこの仕組を評価したわけではなく、当時はトヨタ、ナショナルなどのトップメーカーには相手にされなかった。