系統利用率

全農に入ってこの言葉も私をびっくりさせた。系統とは当時、農協・経済連・全農という農協組織を意味し、そこの組織間で経済事業をする場合の組織利用状況を表す数字であった。農家は農協を利用し、農協は経済連を利用し、経済連は全農を利用するというのが協同組合組織として当然であるが、利用機能を認めないところに利用は存在しない。またそれぞれの組織段階において取り扱い品目が異なる場合もある。更に系統メーカーそのものも系統の各段階の利用の仕方が異なり、全農取り扱いメーカーであっても経済連と直取引は可能であった。メーカーとしては一段階抜ければ、手数料を支払う必要はなく対策費に転用できるというメリットがあった。

取り扱い品目によっても系統利用率は大きく異なった。肥料のように肥料原料を海外から調達し、それを系統肥料メーカーに原料販売し、それを買い戻して製品を再度取り扱う仕組みでは市場競争力が高く系統利用率は高い。原料を抑えていた事業は肥料だけでなくダンボールや畜産飼料もあり、それらの事業は高い市場占有率を持っていた。しかし農薬のように農薬原体メーカーが別に存在する場合は全農の市場競争力は弱く、系統利用率も低くなる。農業機械も農薬と同様に市場競争力は弱く、系統利用率は低かった。更に農業機械の場合は市場への販売ルートが3通りあることも市場競争力を弱める要因であった。市場は系統と商系(農業機械店)に分かれ、更に大手メーカーは県別に直販会社を持っていた。そこで農協と系列販売店と県別直販会社が市場で競争をしていた。

これらの市場メカニズムとは別に最大の驚きは系統利用率が公表されていたことであった。私の感覚からすると系統利用率とは全農の機能評価の通信簿であり、通信簿を公表する子どもは滅多にいない。この神経を疑うだけでなく、全農はこの通信簿を公表して経済連に対して利用率の向上を訴えるのである。利用しない経済連は何か後ろめたいことをしているような感覚で隠すのである。この関係は経済連と農協との関係でも同じである。農協と農家組合員の関係も同様な感覚があり、系統とは摩訶不思議な価値観を共有している組織だと感じた。更に面白いのが、それぞれの組織の役員になるための大きな要素がこの系統利用率なのである。利用率の悪い農協の組合長は連合会の役員にはなかなかなれないということが当然のように言われ、役員になるために利用率を上げろという指示を出した組合長もいた。一般社会の常識が通用しない部分と言ってしまえばそれだけだが、これが系統という共同の仲間うちの価値観なのである。