全中改革と農協改革

佐賀県知事選の結果を受けて、農協改革の方向性について様々な意見が噴出している。私はここでもう一度、今回の改革は全中改革が主眼であって、抜本的農協改革では無いということを認識してもらいたいと思っている。殆どの人は全中改革と地域農協改革の違いが分からないし、改革案を策定している当事者も分かっていないのでは無いかと思う。
私はここで単に地域農協と全中の法人格の違いを言っているわけではない。この違いは地域政策の視点から論じないと本質が見えてこない。JAグループの全国連組織は全中を始め、全農、農林中金全共連等があり、それぞれ経済、信用、共済という機能を分担している。それぞれの事業機能を遂行するために全国連に求められる機能があり、今回の農協改革では全農の株式会社化が議論されている。全農の株式会社化については今回の農協改革議論ではあまり問題となっていない。実は、そこが問題の本質であって、地域農協は全農が株式会社になっても反対運動はしないし、当の全農職員も問題視はしていない。それは全農が地域農協の地域活動に対して、殆どコミットしていないということを意味している。地域農協は系統利用という縛りのなかで全農利用を優先してきたが、全農が株式会社化すればその系統利用という「くびき」から解放される。これまでは一種の後ろめたさを感じながら系統外利用をしてきたが、今回を契機に地域農協は堂々と全農を利用しなくても良いという「お墨付き」を得ることになるのだ。全農は農産物や資材という商品だけを通じた地域農協とのつながりであり、地域農協は系統意識を持っているがゆえに全農を経済原則だけで位置づけなかった。しかし全農は大手町の感覚だけで事業をしているので、地域農協の背後にある系統利用という協同組合意識に気づかず、今回の株式会社化を歓迎している。
全中は指導事業を通じて地域農協とつながっているが、そこの関係性は全農とは異なり単純に割り切れない。問題となっている営農指導事業であるが、この評価は非常に難しい。農作物の栽培に関する営農指導は、地域の試験場や農業改良普及センターが地域農協と一緒に実施しており、そこに全中が直接参加することはない。全中は農水省が策定した地域農業政策に則り、それぞれの地域農協における地域農業政策を指導することが主眼で、そこに全中独自の指導はあまり見られない。それは無理のないことで、全中は地域活動に直接係ることは殆ど無く、地域政策の指導は出来ないからだ。
今回の改革の主眼は地域農業政策の実行主体の変更問題であり、地域農協の主体性をどのように育てるかの視点で議論しなければならない。地域の選挙に対するパワーを誇示するだけでは何の解決にもならない。