総合農協の意味

総合農協というと一般的には農協が様々な事業を独占的に手がけているイメージである。だから独禁法適用除外団体の問題が出ているのだと理解されている。しかし総合農協の一番の特徴は様々な事業展開にあるのではなく、様々な事業の財布が一つであることなのだ。農家組合員の一つの口座にお米の仮渡金が入り、委託販売後の清算金がはいり、農業機械の購入代金がその口座から引き落とされ、肥料と農薬の代金もそこから引き落とされる。農協の生命保険や損害保険である共済代金もそこから引き落とされる。このように一つの口座で殆どの金銭の出入りが把握できる仕組みが総合農協なのだ。

ダイエーの社長の中内さんと話した時に彼はこのように言っていた。ダイエーは消費者の総合農協を目指している。そのために金融事業等消費者に関わる様々な事業を展開し、ダイエーコングロマリットと呼ばれた。しかしあまりに事業の多角化を進めた結果、倒産してしまったとも言われている。私は中内さんが消費者の財布の総合化を目指したことは間違っていないと思う。しかしムラとマチの違いを認識していなかったのではないかと思う。ムラは監視社会であり、更に夜逃げはなかなか出来ない。しかしマチは無関係社会であり、都合がわるくなれば引っ越しが出来る。そこには全く異なるマーケティングが必要となる。このことを殆どの人は理解していない。農協の人間もそのことを意識していない。

私の友人はマチの感覚でムラへの事業展開の方法を相談してきたが、私は「労多くして実りが少ない」から止めたほうが良いとアドバイスしてきた。今回の農協改革の背景には、国内で残された最後の市場を開拓したい企業の意図が見え隠れする。もしかしたら海外の企業にムラへの進出を手助けするために、進出の障害となる農協組織を崩壊させようとしているのかもしれない。全中の指導力を低下させ全農を株式会社化すれば、一般企業のムラ進出が可能となるという仮説を立てている可能性がある。しかしそれは間違いである。農協という組織は一般の組織とは異なり、上意下達の組織では無い。農協は全中や全農の指示命令で整然と行動しているわけでは無い。ムラに売り込みをかけたいメーカーが商品を全農に持ってきて、全農が取り扱いを決めても、その商品は即、農協で売れるわけでは無い。農協というのはそのような組織なのだ。ローマクラブが成長の限界の総括のなかで、現在の消費社会のマスマーケティングからの転換の必要性を訴えているが、もしかしたらムラのマーケティングがその答えかもしれない。