日本型環境支払い

この言葉を聞いて何を意味するのかきちんと理解している国民は少ないと思う。農家そのものも理解していない場合が多い。具体的には「ふゆみずたんぼ」であるが、これまでの支払い対象は冬場の水田に水を張れば、それだけで対策費が支出された。農家にすれば冬場に用水が確保できれば支払いを受けられるので、そのことの意味を理解しようとしない。農水省のパンフにも鳥がふゆみずたんぼに来ることが目的のように書いてある。この対策費の効果測定の調査に同行したが、一所懸命に鳥の姿を追っていた。本来は水田の生物多様性を高めるのが目的なので、農家に生きもの調査を義務付けなければ意味がない。しかし、今回の対策にも調査は義務付けられていない。私のセンターが生きもの調査をしているから言っているのではない。冬場の水田に水を入れただけで国民の税金が環境対策費という形で支払われるという構図は国民に理解されない。

これは「ふゆみずたんぼ」だけではなく、用水や畦の補修を共同で実施した場合にも環境支払いがなされる。この問題では以前、全国新聞に「市民が草刈りをしても対策費は出ないのに、何故、農家が草刈りをすると対策費が出るのか」という記事が掲載された。この記事を書いた記者のレベルにも呆れるが、農水省は国民に対して農家の草刈りの意味を理解してもらう広報活動をしていない。もちろん、「ふゆみずたんぼ」の解説も広報も国民にしていないし、新聞もしていない。これでは国民が日本型環境支払いの意味を理解しないのも当然である。納税者に理解されない対策は長続きしない。

農水省のこれらの一連の対策は1992年から実施しているEUの農村環境対策をモデルにしているが、EU市民が何故、この対策を受け入れたかの背景を理解していない。更に近年では価格補填の直接支払い対策よりも農村環境対策に予算がシフトされている事実を日本国民は知らない。これは何も国民が悪いわけではない。直接支払いへの転換は1992年のガットウルグァイラウンド以降であるが、政治家も官僚も農協も新聞も殆ど国民に対してその意味を説明していない。国民は選挙対策としての農家への税金のバラマキだと思っている。環境支払いは農業政策ではなく地域政策であることを国民は理解していない。それはEUの政策を形だけ真似して「ふゆみずたんぼ」や草刈りが国民とどのような関係性を持つのかを説明していないからだ。地域政策とは将に国土政策であり環境政策であり教育政策なのだ。その意味を国民に説明せず理解を求めようとしないので、納税者である国民は納得しないし、その実施主体である農家という国民もその意味を理解しないで形だけを真似ているのだ。