今、何故、農協改革なのか

非常にきな臭い臭いがする。何故、この時期に農協改革の議論が前面に出てきたのか。今、集団的自衛権の議論をしている時期に議論すべきことは、兵站食料問題ではないだろうか。海外に自衛隊が出ていって戦争をするためには、武器だけでは戦えない。当然、自衛隊の食料の供給が伴わなければ戦争にならない。第1次世界大戦の時に日英同盟に基づき欧州に軍隊を派兵することが検討されたそうだが、食料の供給態勢が出来ないので諦めたという文章を読んだことがある。武器輸出の見直しもいいが自衛隊に供給する食料をどうするのか真剣に議論する時ではないだろうか。自衛隊を海外派遣するということは戦争状態に突入するということであり、食料の輸入も戦時状態になることを意味している。食料自給率40%の国が戦うということの意味を考えなければならない。

憲法解釈の議論や憲法改正の議論があるが、どこの政党も食料主権の問題を憲法に明記すべきだという主張をしていない。「腹が減っては戦は出来ない」ことは誰もが分かることだし、第2次世界大戦で日本の軍人が食糧不足で餓死したことも事実である。このように大切な議論を集団的自衛権の議論とセットでするのであれば理解できる。そして食料問題を解決するキーポイントが農協改革なのであれば、今、議論を急ぐ必要がある。しかし残念ながら今回の農協改革は、農家の利益増進という大義名分のもとに出されている。この論理展開は誰が考えても道理が通っていないし、意味不明である。

そこで考えられるのが、TPPの着地点を予想した事前の反対闘争潰しである。全中という組織は農家のTPP反対闘争を指導している機関であり、TPPの交渉結果によっては再度、全国的な反対闘争をせざるを得ない状況を想定している。そこで事前に反対闘争のムシロ旗を掲げる組織に動揺を与えておけば、農家はなし崩し的にTPP結着を受け入れざるをえないとの読みである。今、この時期に農協改革を急ぐ理由はこれしか考えられない。政府はTPP対策として法人化や大規模化、そして輸出拡大等を進めようとしており、そのためには全中の廃止や全農の株式会社化が必要であるという論理展開を無理やりしようとしている。これは全く間違った論理展開であり、農協の組織問題を論ずる以前にこれまでの農業政策を根本的に点検しなければならない。これまで構造改革が出来なかった理由を農協組織を人身御供にして誤魔化してはならない。この問題の原因は農協と自民党農水省の三竦みの歴史であり、更に食料・農業・農村基本法を定めたにも関わらず、構造改革の議論を産業政策に終始し、地域政策を国民全体の議論にしてこなかった結果なのだ。