20年前と同じ失敗を繰り返すTPP農業対策

TPP交渉の合意を受けて、政府は国内農業対策を実施するという。このままでは来年の参議院選挙での農村票の獲得が難しいと判断しているからだと思われる。しかし実施しようとしている内容が次々に明らかになってきているが、一連の対策を実施しても日本の農業は衰退に向かい、日本の国土は間違いなく荒廃するであろう。何故ならば、現在、新聞紙上で取り上げられている対策が1995年のガットウルグァイラウンド対策と同じ発想だからだ。今回のTPP交渉は20年前のガットウルグァイラウンドと同じ課題を突き付けられており、国際貿易自由化の障壁をなくすなかで、関税でない国内農業保護対策が求められているのである。1995年以降、国際化に対応するために様々な直接支払い等の構造改革が試みられてきたが殆ど効果はなかった。その結果、20年後に再び同じ問題をTPPで突き付けられたが、20年間の構造改革の失敗の総括がなされていないので、今回のTPP対策も20年前と同じ発想のものしか出てこないのだ。

今回のTPP交渉にEUは参加していないが、もし参加していたとしたらEUは日本のように周章狼狽することは無い。それはEUがガットウルグァイラウンド決着後、CAP改革と称して本格的な所得補償政策を展開し、現在では農村環境対策に大きくシフトしている。その結果、EU農家の農家所得は直接支払いで支えられ、高い関税をかける高価格政策を実施しなくても農業を継続できる状況なのだ。20年間のCAP改革でEUにおける農業の位置づけは大きく変わり、環境との関係性を語らない農業はEU市民から支持されなくなっている。日本もEUのCAP政策を真似て様々な直接支払い政策を展開してきたが、殆ど効果をあげていない。更に農業はあくまでも食の安全で語られ、環境との関係性で語られることは無いので、直接支払いに対する国民的認知も無い。その結果、政府はTPP交渉で25年前と同様に関税化反対という立場を死守せざるを得ない状況になり、重要5品目の関税化は防御したという苦し紛れの総括をしている。今、本当に必要な総括は、「何故、日本はEUと同じような構造改革を実施しようとしたが出来なかったのか」である。その総括無くしていくらTPP対策を講じてみても再び同じ失敗をして税金の無駄遣いを続けるだけなのだ。

現在の政府の考えているTPP対策の一つは、農地を集積して大規模農業を目指し、国際競争力をつける。そのために耕作放棄地の固定資産税を上げ、生産法人への民間会社の出資比率を50%以上にする。もう一つは品質に優れた国産農産物の優位性を活かして輸出を拡大する。この2つを検証する前に一番総括をする大切なことがある。それは日本人の農業と環境に対する価値観である。EUのCAP改革はEU市民EU納税者が支持したから成功したのだ。何故、EU市民はCAP改革を支持したのか、何故、日本人は直接支払い等の構造改革を支持しなかったのか、その分析と総括をしないかぎり真のTPP対策は出てこない。次回のブログでEU市民の農業と環境に対する価値観の変化の分析を書いてみたい。